頓痴気号漂流記

一人で工廠を名乗る不届き者。

狂気の弁明#3

学会発表者の狂気に迫るインタビュー、第三回はこの企画の元凶でもある温泉卿さんに来ていただきました。
Twitter:@qieziyan ブログ:https://kikuimusi.hatenablog.com/

 

アイマスとの出会い

―まずアイマスとの出会い、それから今日に至るまでのアイマス歴といいますか、それを大雑把に触れて頂けたらと思います。

そうですね、まずは先輩から「モバマスをやれ」と言われまして、それで入れたというのが最初の出会いでしたね。その時はおそらく振り分けポイントの肥やしにされる予定だったのでしょう(笑)。あまり琴線には触れなくていったん遠ざかってしまったのですが。後日に何の因果かデレステを始めたのですが、なぜ始めたのかは忘れてしまいました。その後…あれはいつぐらいだったかな…3,4年前くらいにちょっと転機があって、そこでデレステとかモバマスとかだけじゃなくてプロデューサーも含めたアイマス全体のコンテンツ、私はよくプロデューサーさんやらアイドルやら含めて全体として“アイマスコンテンツ”という言い方をするのですが、“アイマスコンテンツ”そのものに興味が移りました。

―最初はシンデレラガールズから入って今はどのレーベルというよりかはアイマス全体に興味がある、という感じですかね。

そうですね。アイマスアイドルとプロデューサーさんたちも含めた全体、という言い方をするといいかもしれません。

―ちなみに今やっているゲームとか、あるいはアニメとかで直接的にかかわっている作品とかはあります?

今も継続的にやっているのはデレステくらいですかね。一応SideMなんかもアニメはリアタイしたのですが…そんな感じですかね。あまり誠意があるとは言えないかもしれませんね。

 

・担当や推しについて

―まあプロデューサーは人それぞれですから。続いてですが、好きなアイドルと言いますか、担当であったり推しについて教えていただきたいです。

担当っていうのはいないのですが、一応推しとして小早川紗枝さんを挙げられると思います。

シンデレラガールズの紗枝さんですね。好きになったきっかけとか覚えていますか?

切欠としては・・・デレステを始めた直後にパステルピンクというイベントが始まりました。そこで好きになったのは確かなのですが、どこが好きになったのかと言われるとその時どうだったかは覚えてない。ただ一つ記憶に残っているのは別の先輩と飯を食いに行ったときに「アイマスどう?気になる子いた?」みたいなこと言われて、「今小早川さんがちょっと気になっていますね」「いいじゃん」みたいな会話があったことは記憶にありますね。

―なるほど。何となく興味があったというかちょっと気になっていたといった感じですかね。

まあ、心惹かれるものはあったのではないかと。

―ちなみに、今のあなたから見て推しポイントというかここがいいよねっていうポイントとかあります?

うーん、本来これを言える立場にはないのですが…
強いて言うなら人格、というとちょっと大げさですが。私の思う小早川さんって、これはすごく大雑把な印象ですが、柔らかいが中に硬い芯がある子だと思っていて、そういう印象を人に持たせるところが好きなのかもしれませんね。あとは…何でしょう、風姿花伝的に満点、というべきか…身枯れても花は咲き続けるビジョンが見える。そういうことかもしれない。

―難しいこと言いますね(笑)ただ、なんとなくわかります。一つお伺いしたいのですが、推しは紗枝さんと教えていただいたのですが推しの定義はどこに置いているのでしょうか。

推しの定義ですか、これは小早川さんを無理に枠に入れるとするならば推しであるよ、という話なので、推しそのものの概念について語るのはなかなか難しいですね。そうだな、強いて言うならば、自分が思い入れのあるアイドルだったらそれはもう推しでいいような気がしますね。

―思い入れ。

はい。強い感情を抱いているのであれば推しでいい気がします。自分がプロデュースできないけど、でもやっぱり特別である。という概念が推しだと思っていて。僕の場合担当という概念が存在しないので、これ以外に言いようがないのですけど。

―強い思い入れとのことですが、温泉さんにとっての紗枝さんはどういう類の強い感情なのでしょう。例えば遠くから見ている人であったり、オフで仲良い友人だったり、まあいろいろあると思うのですけど。あなたにとってはどんな感じでしょうか。

そうですね…知り合いの娘くらいの感覚ですかね。

―知り合いの娘。…というと?

なんだろうな…小早川紗枝担当Pのよき知り合いでありたい、というとわかりいいですかね、この程度の距離感なのかな、と。基本的にあまり関わりたくないのですよ。それは嫌だからじゃなくて、関わってはいけないような気がするってだけなんですけど。

―だから「近いけど外から見ているような関係性」というか、そんな感じの距離感に落ち着くと。

はい。

―なるほど、ありがとうございます。

 

・発表の要約

―ここからはアイマス学会in北九州での発表についての質問になるのですけど、温泉さんの発表スライドも表紙は紗枝さんでしたね。概要というか、大雑把に目的・手段・結果など教えていただきたいです。

あの画像は「概論」っていう言い方、言葉とバスガイドっぽい衣装がしっくりくるなと思って適当につけたのですけど(笑)。先ほど“アイマスコンテンツ”に対して興味があるっていうのをお話ししたじゃないですか、その“アイマスコンテンツ”っていうものってなんだよ、アイマスとは一体?という疑問に解を与えることが目的でした。

―確かに誰しも通る道ですね。

そうですね。アイマスって何、アイドルって何っていう純粋な疑問を深く詰めていきたい。何かしらの答えって出せないかな?という試みが最初の一歩でした。で、それに対する方法として今まで人類が積み上げてきた叡智、学問から方法論を引っ張ってきて応用させれば一定の答えがでるのでは、という期待がありました。

―既存の手法を使ってアイマスを考えてみようって感じですかね。

そんな感じです。それで考えた事というのが大きく三つあって、心理学と西洋神学と文化人類学です。それぞれ何故かというと…まず心理学からいきましょうか。アイマスとプロデューサーさんの関係っていうのは、結局プロデューサーさんがどうそれを認識するかっていう問題だと考えたわけです。そのアイドル或いはアイマスっていうのをプロデューサーさんがどう認知・認識するか、それを考えるならば心理学っていう物は避けて通れないと思いました。次に西洋神学ですね、これはアイドルってそもそもどういうものだっけという確認のために用いました。アイドル、偶像というのはエイドロン(eidolon)っていう言葉の訳語です。じゃあそのエイドロンっていうのは具体的にどういうものとして定義されているのかってことを考えようとすると、西洋神学に触らざるを得ないという部分がありました。最後の文化人類学ですが、“アイマスコンテンツ”はもはや一種の文化だと私は考えています。したがって、人と文化の関係性というところで文化人類学を使う、ということになりました。で、それぞれの方法から答えが出るかなと期待したのですが、ちょっと困ったことになりました。何かというと余りにも節操なしにいろんな分野から持ってきちゃったせいで、それぞれの分野の問題点を全部背負ってしまった。これはもう収拾がつかんぞという話になった上に、さらに大きな問題を見落としていたことに気づいてしまったのです。本当に既存の理論をアイマスに応用していいのかという問題です。それを考えるために持ってきたのが哲学という面があります。ということで、哲学を踏まえるとこれは方針が悪かったというよりは方法が悪いという事に気づかされました。今までは「アイマスはこれだ」って言えるはずだ、というのが大前提だったのですが、これはちょっと無理があるぞと。「アイマスはこの辺りにあるぞ」くらいだったら言えそうだなと。

―ピンポイントを指すというよりはこの辺だと大雑把に囲ってやる、と。

ここっていうよりは柵の中にいる、みたいな。これだったらできるっていうことに気づきました。というところでいったん私の発表はおしまいです。

 

・今後の展望

―ありがとうございます。ちなみに今後の展望というか、前回の発表からこれくらい進んだよ、今後どっち方向に舵を切っていきそうだよなどという事はありますでしょうか。

アイマス学概論自体が見切り発車で走らせてみたらガッタガタでどうしようもなかったっていうところがあったので、それに対してもう一回丁寧に積みなおしてあげようっていう試みを今やっています。便宜的にver.2.0という言い方をしていますが、今ver.1.2位までは来たかなという感じですね。多分ver2.0は「アイマスが宗教である」という命題が要になってくるのではないかと考えています。しかもただの宗教というよりは…進歩というと言い方が悪いですが、発展というといいのかな、人間社会の変動と合わせて一歩転換した形の宗教なんじゃないかなと思っています。

―新しい形と言いますか、そんな感じでしょうか。

そうですね、そんな感じなんじゃないかなってことが言えそうかなくらいまではきていますね。

―...先ほど聞き流してしまいましたが、目標がver2.0で現在ver1.2である、と。バージョンごとの違いと言いますか、ここまでの思考の流れについて教えていただけますか。

ver1.0は「アイマスはこれだ」と言えることを前提にして材料を用意したものです。しかし言えなかった。なのでver1.1では使った材料の再確認を行い、神学と文化人類学は曖昧な対象に効果がありそうだと判明したところまでいきました。そこでver.1.2に移行し、効果の判定を行う段階まで来ました。こんな感じですかね。

 

・犯行動機

―そもそもアイマス文化人類学だったりを使うのは珍しいと思うんですけど、なぜこの分野を扱おうと思いました?

そうですね、まずプロデューサーさんも含めたアイマス全体のコンテンツというものに興味があるっていうのが一つ、あと正直今の二次元アイドル文化、勿論アイマスに限らずになんですけど、っていうのは一種の文化的な爛熟期にあるっていう考え方を私はしているのですよ。具体的に言うと、未来の人類からみるとその期間に特徴づけられる文化みたいなものになるかなという風に期待をしていて、語弊を恐れずに言えば百年後とかの日本史の教科書に、たとえば…

天平文化、みたいな

そんな感じです。国風文化、みたいな感じで二次元アイドル、まあアイドルに係るかわからないですけど「二次元文化」という風な感じで残るような、特異な文化の真っただ中に我々はいる気がしています。じゃあ「この時期にこういうものがあった」っていうことを残すためには何が一番いいのだろうって考えたときに、学術のベースに乗っけるっていうことが一番効率的なんじゃないかなという風に思ったわけです。例えば平安時代日記文学ってあるじゃないですか。あれってどうして現代まで残ったのかって考えると、恐らく有職故実の影響が強いのではないかと考えていて。当時有職故実っていう、昔の先例っていうのを研究して儀礼とかの参考にする学問があった。で、そういうことに必要なのが昔の貴族の日記です。有職故実学にとって一番重要な史料って貴族の日記だった。だからああいう日記が写本とかになって残っているわけです。

―ああ、学術資料として。

そうです。そう考えると、現代における学問の形にアイマスっていうのを書き直してあげれば、恐らく普通に他の方法をとるよりも本質が残っていくのではというのが僕の狙いではありました。勿論アイマスを知りたいっていう気持ちもありますが、別の理由としてそういうのもあったって感じですね。

 

・私的P観

―なるほど、ありがとうございます。ここからはアイマス学会というよりは温泉さんのアイマス観について伺っていこうと思っています。先ほど「担当がいない」と仰られましたが、これはどういう意味なのでしょうか。

これに関しては私が私自身をプロデューサーでないと思っているから、としか言いようがない…

―…というのは?

なかなか難しいですよね(笑)。僕にとってのプロデューサーの定義というやつが、「私以外の誰か」、誰かっていうのは複数でも単数でも構わないのですが。少なくとも私はプロデューサーじゃないぞっていう確信があるらしい。

―どういう人がプロデューサーかではなく私はプロデューサーではないと。

どういう人がプロデューサーかと言われるとちょっと困ってしまいますが、少なくとも俺はプロデューサーじゃねぇぞっていう、プロデューサーの資格がないって言い方をした方が良いですかね。というよくわからない確信があるみたいです。

―ちなみにその確信を得るに至ったきっかけなどありますか?

そうですね、最も気が狂っていた時代にチケット持たずにSSAに行ったのが一つの契機ですね。

―音漏れではなく?

音漏れではなく。はい。あの時は一番気が狂っていて、何をしたかっていうと…当時私埼玉に住んでいて、なんかこう急に思い立って「そういえば今日ライブやっているなぁ、SSA行くか」ってSSAに行きました、昼に。で、ライブの開場前ってプロデューサーさんたちが集まって名刺交換とかやられているじゃないですか。その辺をふらーっと歩いていました。本当に気が狂っていたのでしょうね。今考えても意味がわからないです。

―なんで?とは思いますね。

で徘徊して、いったん違う場所で時間をつぶして、今度は終演間近にもう一回行って、広場は真っ暗ですよ。街灯がポツンポツン見たいな所のベンチで本を読みながらボケーっとしていました。当然終わるとプロデューサーさんたちが一気に出てきて、さいたま新都心駅までダッシュする様を眺めていた記憶があります。

―帰ろうとしますよね、必死に。

帰ろうとして。ダッシュする。それを見ながら本を読んでいたのですよね。あれが大きなポイントです。

―えっと、それは…何をしに行ったのですかね。

わからないです。

―それは演者に興味があってとかそういうものでもなく?

なくて…正直今でもよくわかっていません。なんでしたのか、完全に奇行ですよね。まあ、そこで曖昧だった違和感が鮮明化したというのがあって、これはアヤシイ言い方なのですが…アイマスって虚構じゃないですか、言ってしまえば。それに対してこれだけ人々が熱狂するのはなんでだっていう疑問があって、経済を回したり、熱心に応援したりとかするじゃないですか。或いはアイドルと声優さんという二者を同一のように見るとか、客観的にみると少し不思議な点っていうのがいっぱい見えてきたのだと思います。

―確かにそう言語化すると不思議ですよね。

特にSSAの熱狂した空気の中に一人だけ変な奴が紛れていると特に強く感じました、そういうところを。そこがポイントでしたね。「虚構、ないものに対してなぜこんなに熱狂できるのだろうか」っていうのが実はこの発表の裏の原点でもあった。人をここまでするアイマスって何なのっていう疑念が裏に隠れていたりします。

アイマスって何なのだろうっていう疑問を持った裏というか、切欠ですかね。

はい。あんまり人にする話でもないのですけど(笑)。多分自身をプロデューサーじゃないって考えているのも基本的にそこが原因のひとつになっているのかなという風に思っています。結局はアイマスの世界というものを信用していないらしいので。

―信用していない?

多分。…難しいですね。信用しないという言い方はよくないですね。正確にはアイドルに人格を認めていない、というべきかもしれない。アイマスアイドルは意識を持ちません、つまりあれは人格を持たない、与えらえた値に対して何かを返すだけです。これは消極的な自己への肯定でしかなく、そこに進展はないと考えてしまう節があります。こういう思考を一歩引いて観察する視点も存在して、彼がこういうクソや…失礼、根性が捻じ曲がった思考をする人間にはPであってほしくないし、なるべきでもないと思っているのかもしれません。

―彼...?先ほどから妙に他人事というか、温泉さんの中のプロデューサー像に対して温泉さんの語り口が遠い気がするのですが。

そうですね、これは私の中の視点が一定しないからだと考えています。視点が浮動して、巨視的に見るとPと非Pの境界にいる、みたいな感じでしょうか…

―このインタビュー中はプロデューサーでない温泉さんに向き合っているのでしょうか。

…正直微小時間の自分の位置はわからないです。ただ、「Pではない」と言いながらアイマスから離れられていないという矛盾を上手く説明してくれるのが”浮動”という概念でした。

―なるほど

ただ、これまで話してきた内容は全て後付けで、実際にこういう仕組みが私の中にあるのかはわかりません。ただ確信をもって言えるのは「Pではないという確信がある」だけで、それ以外は全て仮説です。

アイマスから離れられないとのことですが、それは何によって繋ぎ留められていると考えていますか?

重力に感情が引かれている感じですかね。所詮オールドタイプなので…

ーつまり魂がアイマス方向に指向していると。

それは否定できませんね、おそらくそうなのでしょう。

ーとなるとアイマスを学問を用いて読み解こうという姿勢はいわば自分らしさに反するというか、自分を薄める向きに考えているように思われるのですが...

それはLotusさんは人間の人間性の根源を感情と捉えている、ということを意味しますか?

ー人間たる所以というか、社会集団の中での個人の存在意義は感情にあると考えています。温泉さんはどちらかというと感情より理性を重視しているように見えるのですが。

そうですね、感情を理性で舵取りしてこその人間だと思っています。

ーという事はアイマス学会での発表をはじめとした一連の思索の原動力は感情ではないという事でしょうか。

その通りです。知的好奇心で駆動していました。

ーなるほど、知的好奇心。しかし好奇心を自身の心より優先するとはなかなか思い切った選択ですね。

優先しているわけではないのです。そうなってしまっただけです。時々思います、「なんでこんなことになってしまったんだ?」と。

ー見るからにヤバそうな状態ですが引き返すつもりはないんですか?

そんなにヤバそうですか(笑)まぁ、どちらにせよ戻ることは叶わないでしょう。なんといっても好奇心の手綱取り落していますから。

 

・取材後記

「学会発表者の狂気が知りたい!」と言いこの企画を立てた温泉卿さんですが、こいつが一番狂気を纏っているのではないだろうか。彼へのインタビューは大層気力を消費しました。

次回は新企画として温泉卿さん、兎爺さんと私Lotusの三人、そしてある学会発表者の方に司会をお願いして座談会を行います。総集編みたいなものです。果たして司会の方の胃は無事でしょうか。

座談会の日程は【12/19】です。三狂の運命や如何に。

(文責:Lotus)



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